家族葬エピソード ~フィルムの向こう側~

のぼりとの杜コラム

フィルムの向こう側
今回は私が過去にお手伝いした葬儀の中から記憶に残る家族葬をご紹介します。

故人様(喪主様のお父さま)は写真撮影が趣味で、腕前もプロ級でした。そのため、一度は写真の個展を開きたいとよく喪主様に話されていたそうです。
喪主様はお父さまに、調子を合わせていつか個展が開けたらいいねと言いつつも、軽く話を聞き流していたそうです。
数年が経ち、お父様が病気を患い床に伏しがちになった後は、弱々しい声ながら喪主様を含め家族のことを心配する言葉を発するようになったそうです。お父様は自分の思いは一切口にせず、口に出るのは残された家族のことばかりだったとのことです。
喪主様は、そんなお父さまの思いを知るにつけ、単に調子を合わせて個展が開けたらいいねと軽く答えていた自分が恥ずかしくなったと言います。
「なぜ、こんな家族思いの父が望むことを素直にしてあげなかったんだろう。」
そして、個展を開くことなく父は天国へ。。。

これは葬儀の打ち合わせの際にお聞きした亡くなったお父さまとご家族のエピソードです。喪主様は悔いだけが残っているようにも思えました。私は、喪主様にひとつ提案をいたしました。「残された家族がお父様の望みを叶えることで、天国に送り出してあげることが家族としてできる最後のお父さまへの恩返しでないでしょうかと。」
表情を見てもご家族の皆様も、お父様のやりたかったことを叶えてあげたいという思いは一緒であることがわかりました。

お通夜の2日前に急遽決めたのですが、葬儀式場を個展会場にし「フィルムの向こう側」と題し、個人が撮影した写真の数々を展示することにしました。
葬儀会場の入り口にいくつか額縁を用意し、L版写真5~6枚入れて展示台に入れて飾ったものを置きました。また、祭壇に向かって左右のクジラ幕にラミネートで加工した写真をピン止めしたものを30枚程度展示することで、急遽写真の個展会場を作りました。ご家族皆様の手で作り上げた個展会場です。
参列された皆様に、単に焼香をするだけではなくお父さまが撮影した写真を見ていただくことができました。家族の皆様も、お父様の思いにこたえることができ満足されているようでした。

火葬が終わり帰路に着くとき「お父さんの個展、最高でした!世界でひとつの葬儀と世界一の個展が開けました」と喪主様は笑顔で話されました。
通夜・葬儀で参列の方は200人を超えましたが、喪主様は「家族葬にして本当に良かった」のひと言はとても印象に残っています。

私はこの葬儀を通じ『家族葬=家族と親戚だけの小さな葬儀ではない。人数で決まるのではない。ご家族の想いがカタチになる。これが家族葬である』と学ぶことになりました。
お客様から教えていただいた記憶に残るお手伝いです。

フィルムの向こう側にはご家族の愛が写っているに違いありません。